ChatGPTで「担当外の仕事」が広がる 43.5%の本当の意味

- OpenAIは米国のChatGPT利用者の仕事関連メッセージ80万件超を分析し、全体の16.8%が別職種に結び付く仕事だったと発表した
- メール作成など多くの職種に共通する仕事を除くと43.5%だが、この数字を全メッセージや全労働者の割合として読むのは誤りだ
- 会社は担当者がAIで仕事を広げることを認めつつ、契約・計算・システム対応など専門外の成果を誰が確認するか決める必要がある
ChatGPTが仕事の境界を変えている
OpenAIは2026年7月27日、仕事でのChatGPT利用を分析した報告書「Work at the Frontier」を公開しました。米国の利用者が送った仕事関連のメッセージ80万件超を調べると、全体の16.8%が、利用者自身とは別の職種に歴史的に結び付いてきた仕事だったとしています。
例えば、営業担当者が顧客データを分析する、マーケティング担当者がWebサイトの不具合を調べる、小規模事業者が広告文、契約書の確認、基礎的な財務分析を自分で進めるといった使い方です。AIで従来の担当範囲を越える動きを、報告書は「タスク・クロスオーバー」と呼んでいます。簡単に言えば、別部署や専門家へ渡していた仕事の一部を、最初に問題へ気付いた人がAIを使って試す動きです。
AI changes the work that people do.
出典:OpenAI「How AI is expanding what people do at work」
「43.5%」は全体の割合ではない
発表で最も目を引く43.5%は、全仕事メッセージの割合ではありません。報告書は、メール作成、文章要約、日程調整など、多くの職種に共通する仕事を「一般的な仕事」として分けています。全メッセージの61.5%がこの区分です。残る職種固有のメッセージだけを100%として計算すると、担当外の仕事が43.5%になります。
| 区分 | 全仕事メッセージに占める割合 | 意味 |
|---|---|---|
| 多くの職種に共通する仕事 | 61.5% | メール作成、要約、日程調整など |
| 自分の職種に結び付く仕事 | 21.8% | 従来の担当範囲に近い仕事 |
| 別職種に結び付く仕事 | 16.8% | 従来は他職種が担うことが多かった仕事 |
つまり「ChatGPTで行う仕事の43.5%が担当外」と言い切ると、分母を取り違えます。正しくは、全仕事メッセージでは16.8%、共通業務を除いた職種固有のメッセージでは43.5%です。AI深報は、この2つを分けて読みます。
人事・デザイン・顧客対応で担当外の利用が多い
共通業務を除いた職種固有のメッセージで見ると、担当外の仕事の割合は顧客対応で77%、デザインで75%、人事で69%、法務で56%、マーケティングで53%でした。一方、これは職種の仕事が消える割合ではありません。各職種の利用者がChatGPTへ何を頼んだかを分類した割合です。
担当外の仕事として広く現れたのは、財務計算、パソコンやシステムの不具合対応、販促物作成、規制や制度の説明などでした。財務計算とシステム対応は、対象となった他の7職種すべてで上位3件に入りました。営業、顧客対応、人事などでも、AIを使って計算や技術的な問題へ踏み込んでいることを示します。
| 職種 | 職種固有メッセージのうち担当外 | 会社が特に確認したいこと |
|---|---|---|
| 顧客対応 | 77% | 料金・契約・技術回答を確定する権限 |
| デザイン | 75% | 広告表現、権利、技術設定の確認者 |
| 人事 | 69% | 法令、個人情報、評価への利用範囲 |
| 法務 | 56% | 計算やシステム判断の専門確認 |
| マーケティング | 53% | データ分析、サイト変更、表示根拠 |
小さい会社ほど「何でも担当」が広がりやすい可能性
通常程度の利用者に限ると、担当外メッセージの割合は2〜5席のワークスペースで18.9%、101席以上で16.3%でした。差は2.5ポイントで、最小区分に対して約13%です。専門部署や相談相手が少ない職場ほど、目の前の担当者がAIを使って仕事を進める可能性があるとOpenAIは説明しています。
ただし、ワークスペースの席数は会社の従業員数ではありません。100人の会社が5席だけ契約している場合もあります。また、利用量が上位25%の人では、席数が増えるほど担当外利用が減るという同じ傾向は確認できませんでした。「中小企業では必ず担当外仕事が多い」と断定できる調査ではありません。
会社で使うための判断表
担当外の仕事をすべて禁止すると、少人数の会社がAIで素早く試す利点を失います。反対に、AIが答えたからという理由で専門家の確認を省くと、契約、税務、労務、個人情報、セキュリティなどで責任の所在が曖昧になります。そこで、仕事を「試してよい」「確認後に使う」「担当外では実行しない」の3段階に分ける方法が現実的です。
| 扱い | 例 | 最低限のルール |
|---|---|---|
| 担当者が試してよい | 下書き、案出し、公開情報の整理 | 事実確認し、機密情報を入力しない |
| 専門担当の確認後に使う | 財務計算、契約文、採用基準、広告表示 | 確認者と最終責任者を記録する |
| 担当外では実行しない | 本番システム変更、送金、契約締結、個人情報の外部送信 | 権限を制限し、承認なしで実行できなくする |
AI導入の教育も、操作方法だけでは足りません。自分の専門外でAIを使うほど、「何が分からないかを見つける力」と「誰へ確認するか」が重要になります。会社はAIの利用件数だけでなく、担当外の仕事がどこで増え、どの確認工程が詰まっているかを見る必要があります。
この調査から雇用減や生産性向上は分からない
報告書の対象は、米国の個人向けChatGPTアカウントから送られた仕事関連メッセージです。利用者の職種はChatGPT Businessで本人が登録した情報と結び付け、顧客対応、デザイン、エンジニアリング、財務、人事、法務、マーケティング、営業の8区分を分析しています。企業向けChatGPT Enterpriseの利用者へ、そのまま当てはめることはできません。
さらに、数えている単位はメッセージです。実際に成果物が使われたか、正しかったか、何時間短縮したか、専門家が確認したかは調べていません。担当外の仕事を頼んだことは、担当外の仕事を正しく完了できたことと同じではありません。
This study maps AI-aided work; it does not estimate AI’s effect on employment or productivity.
出典:OpenAI「Work at the Frontier」12ページ
したがって、この調査だけから「AIで43.5%の仕事が置き換わる」「人員を43.5%減らせる」「生産性が43.5%上がった」と読むのは誤りです。確認できるのは、ChatGPT利用者が従来の職種境界を越える仕事をAIへ相談しているという行動の変化です。
注意点と限界
分類にはChatGPTが使われ、利用者の職種も本人の登録情報に基づきます。1つのメッセージに複数の仕事が含まれていても、主な活動1つへ分類されます。米国の全労働者を代表する標本ではなく、医療など8職種以外へ分類されたメッセージは主要分析から除かれています。
今回確認したのはOpenAI自身による製品利用データの分析です。実際の人事評価、賃金、採用数、離職、売上への影響を外部機関が追跡した調査ではありません。日本企業の仕事の分け方や法制度も米国とは異なるため、日本の割合として転用すべきではありません。
目立つ43.5%は全仕事や雇用代替の割合ではありません。全メッセージに占める担当外業務は16.8%で、対象も米国の8職種に限られ、成果の品質や生産性は測定されていません。会社では担当外のAI利用を仕事の危険度に応じて管理する必要があります。
※ 本記事は公開時点の一次情報にもとづいています。最新の状況は出典をご確認ください。
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監修者:水間 雄紀
株式会社AIMA 代表取締役
1986年和歌山県生まれ、近畿大学卒。金融機関、経営コンサルティング会社を経て、2018年にコンテンツ制作の専門会社である株式会社circlizeを創業。2024年、ラグザス株式会社に事業譲渡。現在は株式会社AIMAにてAI×マーケティング事業に従事し、株式会社ラグザス・クリエイトでコンテンツの品質管理責任者を務める。
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